誰かが隣にいてくれる

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「洋介先生、待ってたよ」 「やけに好意的じゃないか」 「だって、肉とか野菜とか切れないんだもん。先生、やってよ」 「そういう意味か……」  高級百貨店のロゴの入ったレジ袋の中には、やけにすました野菜が入っている。  牛肉も、霜降りの上質肉だ。  特売品にすぐ目が行く成瀬には、不釣り合いな食材だ。 「近所に、スーパーがあるだろう。こんな高価な買い物を」 「入ったことないから解んないもん。だから、いつものお店で済ませたんだ」 「いつものお店、ね」  愛情の代わりに金だけ与える、蓮の父親を思った。 (私に、父のぬくもりを求めたのかもしれないな)  だから、夕食に招待したのだろう。  野菜を切りそろえながら、成瀬はそんな風に蓮を考えていた。
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