6人が本棚に入れています
本棚に追加
2人だけの、観衆の居ない結婚式。
それがたった今、世界の大混乱を余所に執り行われた。
どちらからでもなく、抱き合う。
頬を寄せて肌に馴染ませる。
相手の体温を、匂いを、もう一度確認し合うように。
それから顔を離し、互いに見つめ合った。
もはや多くの言葉は不要である。
「ずっと、ずっと一緒だよ」
「もちろん。いつまでも側に居るわ」
「愛してる、久美子」
「愛してる、和彦」
途端に、2人の目から血の涙が溢れだした。
それは止めどなく流れ、瞬く間に視界は真っ赤に染まる。
意識が遠退く。
それでも両手は離さない。
膝が折れ、折り重なるようにして、床に倒れた。
真冬の冷えた床。
身体は既に感覚が無くなっている。
だが、最後に感じたぬくもりだけは、闇夜を照らす篝火のように胸にある。
たったそれだけを頼りにして、2人は黄泉の世界へと旅立った。
それから世界がどうなったか。
人類が滅亡したか否かについて、カズヒコたちには知る由がない。
だが、彼らにとっては些細な事だろう。
永遠の愛を実現した2人の真心が、何よりも大切なのだから。
ー完ー
最初のコメントを投稿しよう!