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2人だけの、観衆の居ない結婚式。 それがたった今、世界の大混乱を余所に執り行われた。 どちらからでもなく、抱き合う。 頬を寄せて肌に馴染ませる。 相手の体温を、匂いを、もう一度確認し合うように。 それから顔を離し、互いに見つめ合った。 もはや多くの言葉は不要である。 「ずっと、ずっと一緒だよ」 「もちろん。いつまでも側に居るわ」 「愛してる、久美子」 「愛してる、和彦」 途端に、2人の目から血の涙が溢れだした。 それは止めどなく流れ、瞬く間に視界は真っ赤に染まる。 意識が遠退く。 それでも両手は離さない。 膝が折れ、折り重なるようにして、床に倒れた。 真冬の冷えた床。 身体は既に感覚が無くなっている。 だが、最後に感じたぬくもりだけは、闇夜を照らす篝火のように胸にある。 たったそれだけを頼りにして、2人は黄泉の世界へと旅立った。 それから世界がどうなったか。 人類が滅亡したか否かについて、カズヒコたちには知る由がない。 だが、彼らにとっては些細な事だろう。 永遠の愛を実現した2人の真心が、何よりも大切なのだから。 ー完ー
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