EPISODE1: 25歳、かな

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定時終わり、田川はいつもの様に駅へと向かう。彼の自宅は小田急線沿いなのだが、どうやら今日は山手線へと乗り継いでいる。行先は何処なのだろうか。 若者の街、渋谷。 そこで彼は降りていった。 買い物でもするのだろうか。 渋谷駅のスクランブル交差点を越えると、坂を上がっていく。 居酒屋、百貨店、そういったものには目をくれずに彼は歩く。 とあるコーヒー店が左手にある、そこに彼は入っていった。 座ると、彼の端正な顔立ちに女性達が視線を送っていく。 黒髪にやや眉毛はしっかりとしていて、睫毛が長い。二重では無いのだか切れ長で大きく見える目をしている。黒い縁のスクエアな眼鏡が、彼の知性を表していた。 田川のスマホ画面には、メールが届いています、という一文があった。 件名 かなです りょうさん、着いていますか? 私、奥に座っています。 少し茶色のセミロングで、黒い髪留めをしています。 ピンクのブラウスです。 田川は素早くメールを返す。 件名 りょうです 着きました。 そちらへ移動します コーヒー店の奥には、頬を紅潮させたいかにもお嬢様、といった感じの女性が座っていた。 やや輪郭はふっくらしていて、肌のつやが良い。痩せてもいなければ、太ってもいない。 しかし、柔らかそうな見た目をしていた。 「かなさん、ですか」 田川が声をかけると、彼女は緊張した面持ちでコクリと頷いた。 「あの、この度は…よろしくお願いします」 田川はにっこり笑いかけた。 「心配しなくていいですよ。ああ、そのコーヒーを飲んだら、出ましょうか」 はい、とかなが返事をするのを聞いて、田川は何も飲まずに目の前の彼女がコーヒーを飲む仕草を、見つめる。 一方のかなは、見つめられて戸惑っていた。 そして、初対面の、おおよそ十も歳の違う男性と会うことに緊張しているのであった。
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