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定時終わり、田川はいつもの様に駅へと向かう。彼の自宅は小田急線沿いなのだが、どうやら今日は山手線へと乗り継いでいる。行先は何処なのだろうか。
若者の街、渋谷。
そこで彼は降りていった。
買い物でもするのだろうか。
渋谷駅のスクランブル交差点を越えると、坂を上がっていく。
居酒屋、百貨店、そういったものには目をくれずに彼は歩く。
とあるコーヒー店が左手にある、そこに彼は入っていった。
座ると、彼の端正な顔立ちに女性達が視線を送っていく。
黒髪にやや眉毛はしっかりとしていて、睫毛が長い。二重では無いのだか切れ長で大きく見える目をしている。黒い縁のスクエアな眼鏡が、彼の知性を表していた。
田川のスマホ画面には、メールが届いています、という一文があった。
件名 かなです
りょうさん、着いていますか?
私、奥に座っています。
少し茶色のセミロングで、黒い髪留めをしています。
ピンクのブラウスです。
田川は素早くメールを返す。
件名 りょうです
着きました。
そちらへ移動します
コーヒー店の奥には、頬を紅潮させたいかにもお嬢様、といった感じの女性が座っていた。
やや輪郭はふっくらしていて、肌のつやが良い。痩せてもいなければ、太ってもいない。
しかし、柔らかそうな見た目をしていた。
「かなさん、ですか」
田川が声をかけると、彼女は緊張した面持ちでコクリと頷いた。
「あの、この度は…よろしくお願いします」
田川はにっこり笑いかけた。
「心配しなくていいですよ。ああ、そのコーヒーを飲んだら、出ましょうか」
はい、とかなが返事をするのを聞いて、田川は何も飲まずに目の前の彼女がコーヒーを飲む仕草を、見つめる。
一方のかなは、見つめられて戸惑っていた。
そして、初対面の、おおよそ十も歳の違う男性と会うことに緊張しているのであった。
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