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病院に着くと、受け付けで患者名を言うことになっている。病棟を聞かれ、精神科です、と答えた。
すると、受け付けのナースが外来へどうぞ、と言ってくる。いつもの外来受診の時のように、精神科の窓口に声をかけ、待合室で待っていた。
「田川様、中へお入りください」
田川は緊張して中に入る。すると、自分より少しばかり歳をとっているだろうか。ちょこちょこと白髪が混じっている、黒髪の先生が座っていた。口髭を携えている。
「ああ、田川さんですね。奥様の事なんですが」
はぁ、と気のない返事をする。どうも肝が冷える。一体何を言われるのだろう、と田川は身構えた。
「君、あれ持ってきて」
なにやら、先生がナースに何かを持ってくるように頼んでいる。田川は緊張した。
ナースが持ってきたものは、小さな箱、であった。
「…これ、ね。奥様が作ったものなんです。箱庭療法、というのをご存知ですかな」
「いえ」
まじまじと見ると、中にはなにか、人形のようなものが入っている。砂の上に人形が立っているのだった。
「何か、気づくところはありますか」
「…人がいない。一輪の花、それにこれは…何だろう。卵?」
「木も動物もありません。あとは川だけ。しかし恐らく、この「花」は奥様であろうと」
「卵…川の向こうに置いてあります」
「そうですね」
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