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EPISODE1: 25歳、かな
秋が始まる頃、というのは、どの職場でも忙しくなるものなのだろうか。
東京の高層ビルが立ち並ぶその一角。
都会の並木道に彩りが増して来る最中に、田川涼介という男はいた。
真っ当なサラリーマン、しかも相当仕事が出来る、という自信たっぷりの表情。
彼が務めるオフィスでは、定時で帰ることが主流となって来ていた。
元々鬼のように残業があり、そのうち労組や
労働基準監督署に通報されるのではと囁かれてきた会社なのだが、それもそのはず、この会社は年俸制であり、予め高額な給料を約束されているのであった。
定時、は18時の事である。
田川は、この職場の悪い環境を排除するべく、ここ3ヶ月間上司と掛け合ってきた。勿論、それは労組にも掛け合ったりなど抜け目のない男なのだったが、そのおかげで彼と同じく社員であるものは、彼を神様のように、いや、まるでヒーローのように捲し立てていた。
同じ社員なのにも関わらず、何かをやり遂げようとする彼の心意気と言ったら、到底誰も真似は出来ないだろう。
廊下で出会った他部署の同期から、彼は声をかけられていた。
「よう、田川。今日位飲みどうだ?花金だし。お前の活躍、人事部まで届いてるぜ、営業の田川はヒーロー、ってね」
口の端に笑いを携えて、彼は言う。
「いや、やめとくよ。お前に付き合ったら朝帰りになるからな」
軽く手を上げて、田川は去っていく。
「…しょうがないか、アイツ本当に愛妻家だな」
定時で帰る彼は、いつも愛する妻の元へ帰る。
職場の皆は相当な愛妻家だと思っていた。
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