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EPISODE2:19歳、愛莉
「ったくさぁ。お前って奴は薄情だよ。大体ねぇ。同期でモテて、すぐ結婚して直ぐに出世。愛妻家で、イケメンだろ。もーちょっとはさ、友達に分けてくれたっていいじゃねぇか。なあ?」
やっぱりか、と田川は思う。
同期の人事部、橋村と飲みに行くと何時もこれだ。辟易して、しばらくは飲みたくないと思うのだが、友達というのは不思議なもので、誘いに乗ってしまうものなのであった。
ビールをぐいぐい流し込んでいく橋村に、田川は自分の冷酒の小さなグラスの中の、透明な光を綺麗だと思い眺めていた。
鯛の刺身の淡白な甘さが、冷酒にピッタリだった。橋村は鳥の唐揚げにレモンをたっぷりかけて、美味しそうに頬張る。
「これ、食えよ田川。うめぇ」
「いや、僕は」
「刺身が好きだなお前って。ジジイみてぇだ」
「レモンをかけると唐揚げは食べれなくて」
「なんでもっと早く言わねーの!?かけちゃったじゃん!お前そういうとこダメなとこだぞー」
くっくっ、と笑って、田川は楽しそうに見える。眉をひそめて諌める橋村も楽しそうに飲んでいた。正反対の二人が友達であることに、社員達は不思議に思っていた。
仕事はそつ無くこなし、アフターに社員とつるまない田川。
情に厚く、要領が悪いが人望は何故かある橋村。
入社してからはや…年、中年となっても、気兼ねなく話せる同僚はお互いにこいつしか居ないと思っている。
「橋村はいい人居ないのか」
「だからぁ、お前が紹介してくれればだな、俺だってさ」
「なんで人任せなんだ、お前モテると思うけどな」
けっ、と言いながら橋村は言う。
「出たよ、その余裕の言い方!やだねーほんと。モテねーよ!お前と違ってな!」
顔を赤くして怒り出す橋村に、田川は笑いが止まらない。いつも一所懸命で、こいつは受付の 浜田嬢が好意を寄せてることにも気づいていないのだ。残念、である。
「今更お前に言ってもなぁ、どーせ奥さんしか見てねぇだろ?紹介する女なんて居ねーよな」
はあ、と溜息を聞きながら、田川は居るよ、とだけ言った。
「えっ」
「居るって」
「嘘」
「嘘つくか、僕が」
「そーだな…誰!?ねぇ!?うちの会社!?」
うんうん、と頷く田川は笑いを隠せなかった。此奴はこういう所が可愛い所だ。決して自分にはない魅力。
「受付の浜田さん」
「エッ!?あんな美人を…知り合い?何繋がり?」
ちょっとね、と田川は言った。
「へー意外。流石イケメンは結婚しても違うねー」
そうじゃないよ、と田川は言う。
そう、浜田嬢は、実は契約者だったのだ。
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