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白兎と黒い狼
白亜を晒す城が遠くに見える、小さな町。そこには皆に愛される薬屋さんがありました。以前は若夫婦が営業していましたが妻が重い病気を持っていたため、子供を産むと同時にこの世から去り、そして先日、残された夫も亡くなってしまいます。それでも、薬屋さんが潰れることはありません。
何故なら、母方の祖母、おばあさんが一緒に住んでいたからです。
薬屋さんからは夜な夜な、男の子の泣き声が町中にかすかに響きます。若夫婦の子供です。彼はまだ六歳。お父さんがいなくなれば泣くのは当然。そんな少年を寝かしつけるため、おばあさんは言いました。
「そうじゃ、お前にこの話を聞かせよう」
「......話って、何?」
子供部屋で涙目を浮かべて疑問を飛ばす少年に、おばあさんは優しげな目を向けてこう答えます。
「昔話さ。もしかしたら元気が出るかもしれないよ」
「出るわけないよ」
「そうかい? この昔話はね、今のお前に似た、白いウサギが主人公なんだよ」
「僕と同じ......。じゃあ、ちょっとだけ」
「ほっほっほ。では、昔話の始まりじゃ」
咳払いをを一つして、おばあさんはお話を始めました。
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