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散らばった物を必死に掻き集めていると、女の人が足元に転がってきた白いクレヨンを拾い、掌に載せたそれを目の前に差し出した。
「これ、全然使わないのね」
白いクレヨンは他のクレヨンとは違って使った形跡がなく、まだ角ばった新品の状態だった。
だって、使う時がないから。
そう言おうとしたけれど、幽霊が怖くて喉から声が出なかった。ペンキで塗ったみたいな白い女の人は、眉毛や睫毛さえも白く、唇も血色が悪かった。
コクンと小さく頷くと、女の人が口角をにいっと上げて笑った気がした。近所に住む従兄弟から聞いた口裂け女の話を思い出し、ゾクリと震える。
女の人は広げていた掌をギュッと閉じた。
「ねぇ、これ……いらないなら頂戴?」
どうして……
疑問に思ったけど、なぜか拒めず、もう一度コクンと小さく頷いた。
女の人は白いクレヨンをポケットに大事にそうに仕舞うと、散らばっていた残りのクレヨンやら教科書やらを拾って渡し、「じゃあね」と言って静かに去っていった。
まるで、白いクレヨンをもらうのが目的だったかのように。
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