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「あなたの技術は素晴らしい。ただしかし、今の宮中では彩色の技法よりも箏の琴をつま弾ける方が良いんだよ」  そう左大臣に言われれば、仕方があるまい。  大姫は東宮に、中の姫は今上に差し上げる。三の姫には今上の皇子か法皇の皇子を婿取ろう、と左大臣は言った。  ならば、親王もしくは、一世源氏の正室になりそうな三の姫の方が彩色の技術が役に立とうか。事実、色に興味を持つのは、このなさぬ仲の三の姫である。三の姫に殿の面影を見ながら、しっかり仕込みたい。その三の姫も、今は北の対で異母姉たちと一緒に箏を弾いている。   大臣だったのは祖父であり、父ではないのに「六条の御方」と大臣の娘のように扱われ、それなりに大切にしてもらっているとは思う。  左大臣家の衣は、正室まで含めて、六条の御方が、大好きな彩色の技術を好きに使い、指揮をして凝りに凝ったものを仕立てた。これは、やはり藤氏長者の家だからこそできることだ。この技を活かすには、藤氏長者に縁づいて良かったと思う。  本院の頭の中将を婿にとるよと祖父に言われたときには驚いた。相手は、堀河の太政大臣の四人の息子の中ではもっとも才走るとされる嫡男である。  顔を見たことはなかったが、その美貌の噂は生まれ育った六条河原院まで聞こえていた。     
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