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 まあるい顔をして、ふくふくとした六条の御方は堀川殿の東の対で、ただ日が過ぎるのを待っていた。  袖の中からやはりふくふくとした手を出さないのは、育ちの良さをうかがわせるが、その実、中指の爪で親指の爪の横を引っ掻く音が小さく聞こえた。  早く、中の姫が帰ってくれば良いのに。  耳をすませば、箏の琴の音がかすかに聞こえる。  しかし、六条の御方の耳では、誰が誰だか聞き分けられない。  息子の二郎君はやんちゃで異母兄と遊びたがり北の対を好んだ。  娘の中の姫は「いずれ宮中に上がるのだから」と箏の琴の練習をしに、今日も北の対で過ごしている。どのみち、気の強い中の姫は、やはり我の強い三の姫とやりあい、おっとりとした大姫が仲裁に入ることになるのだが。 「私にできるのは、色を合わせて、模様を決め、衣を作ることだけだもの」と六条の御方は呟いた。若い人には退屈だろうか。  色の白い殿方には、黄色の強い色を合わせないほうが良いこと。  反対に色黒の女君には、黄色や緑色が映えること。  中の姫に教えてやりたいことは山のようにあるのに。     
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