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春の日の踏切で
よし、手を繋ぐぞ!
私は鼻息荒く(実際は花も恥じらう乙女なのでそんなことはしないが)意気込んでおずおずと手を伸ばして──そっと引っ込めた。
(ええい意気地なし!)
私は自分のふがいなさに、舌打ちでもしたくなる。
実際は番茶も出花な乙女なので、そんなことはしないが。
彼と付き合いはじめて、もうすぐ一ヶ月。
数えるほどのデートの中で、未だ手を繋ぐには至らない。
(よし!今度こそ……)
そう決意した瞬間、挙動不審な私に気付いたのか、彼はくるっとこっちを向いた。
「どうかした?」
「う、ううん」
私は思わず頭を振って、目を逸らしてしまった。
ええん。カッコいいよう。
手、繋ぎたいよう。
彼からは見えないように、自分の手のひらを見る。
まじまじと眺めていると、緊張が伝播して汗がじんわりとにじんできた。
慌ててスカートで手を拭う。
(見られてないよね?)
横顔を見上げると、彼は踏切の警告灯の点滅をじっと見つめていた。
睫毛がくるんと上を向いている。
あああ。かっこいい。
手を、繋ぎたい。
私の思考はループする。
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