春の日の踏切で

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 そんな踏ん切りのつかない私にとって、踏切というのはなんと便利なスポットだろう。  そんなことを思うのは生きてきて今日が初めてだが、とにかく今はそう思う。  自然に足を止められる。  空白の時間が生まれる。  手を、繋ぐチャンス。  踏ん切りつかないのに踏切とはこれ如何に。  ……いや、すいません、最後のはホント無関係だけど、私は今日、踏切が開くまでの待ち時間にミッションを遂行することを企てているのだ。  よし、今度こそ──。  幾度目かの決意のもと、私は手を伸ばす。  もう少しで届く!  ……しかし、その手をスルッと抜けるように、彼は歩き始めていた。  あ……踏切が開いていたんだ……。  私は呆然としそうになるが、慌てて彼との二、三歩の差を小走りで埋める。
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