春の日の踏切で

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 目前に迫った“開かずの踏切”の警報器の音を耳に、私は自分の心を鼓舞して、拳を握り締める。  踏切につきます。  深呼吸します。  電車の通過の騒音でごまかせるタイミングで、決意を言葉として口にします。  はい、あとは手を繋ぐだけ!  シミュレーションも完璧だ。  彼が足を止めた。 (よし!)  私が深呼吸しようと息を吸い込んだ、その瞬間。 「香澄ちゃん。ここの踏切長いから、跨線橋(こせんきょう)上がっちゃおうよ」 「へ?」  膨らみすぎた風船がパンッと弾けるように、私の脳内シミュレーションは吹き飛んだ。
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