母と娘

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 ある田舎の村に、2人暮らしの母と娘がいた。幼い娘は母の作る鍋料理が大好きで、いつも料理をする母を手伝いながら、夕食を楽しみにしていた。  ある日、村が襲われた。2人の家にもモンスターが近付き、ドアを破ろうとする。母は娘に「部屋に戻ってタンスに隠れるように」と言いつけると、お鍋のふたと包丁を持って外へ飛び出す。娘は言われたとおりに急いで部屋に戻るとタンスに隠れ、じっとしていた。  大きな音や悲鳴が聞こえ、娘が隠れたタンスは大きく揺れたり傾いたり暑くなったりしたが、それでもじっと隠れ続けた。そして、いつ眠ったのか覚えは無いが、目が覚めると、静かになっていた。恐る恐る外に出る、小さな娘。  タンスは瓦礫の上に倒れていて、そこには娘の部屋も、母娘の家も無かった。娘はフラフラと歩き出す。村中が破壊されていて、そこかしこに倒れている村人の姿があった。娘が近付き、声をかけても、誰も動いてくれなかった。娘は、よろよろと村の中央にある井戸へ向かった。ようやく井戸に近付いたところで、その向こう側に、うつ伏せに倒れている人影が見えた。汚れ、破れてはいたが、見慣れた服のその女性は、娘が夕食前にいつも楽しみに眺めていたお鍋のふたをその左手に、台所ではどんな食材も簡単に切ることができた、しかし今は刃の折れた包丁をその右手に、しっかりと握っていた。  震える足で傍まで進むと膝をつき、その左手を、優しく触る。母の隣で、娘は、泣いた。
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