妻の物語

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 2機の戦闘機が撃墜された瞬間から生まれた不安は、私の中で急激に大きくなり始め、気が付いた時には過呼吸寸前といえる程に呼吸が荒くなっていた。それでも何故か、私はテレビの画面から目を離す事が出来なかった。  テレビの画面には、巨大怪獣から次々に乱射される熱線とそれらに翻弄されて編隊を乱されても必死に攻撃を加える戦闘機部隊の姿があった。  「……戦闘機部……々に熱線が放たれて……基地から追加の部隊が……」  テレビから流れる女性アナウンサーの声が聞こえなくなる程、自分がどんな感情なのか混乱して分からないまま私はテレビの画面に見入っていた。主翼に被弾して高度を下げていく1機の戦闘機を見て、混乱する感情の中で目に見えない不安と恐怖が更に増大していくのが感じられた。  「……怪獣の様子が……所々赤く……」  急に声のトーンが変わった女性アナウンサーの実況で我に返り、私はテレビの画面をじっと見た。巨大怪獣の身体の各所が赤く光ったと思ったその直後に身体全体がその赤い光に染まり、音割れしてバリバリと聞こえる爆発音と共に周辺の街並みや戦闘機部隊が旋回する上空を赤い炎で包み込むと、カメラからの映像が途絶えてしまった。  「たった今、カメラからの映像が途絶えてしまいました。はい……しかし、今の映像を見る限り、巨大怪獣が大規模な自爆を起こしたのではないかと考えられます。えー……」  巨大怪獣の突然の自爆……街中や上空を包み込む巨大な炎……それに隠されるように消えた戦闘機部隊、爆発の衝撃で巻き上げられた大量の瓦礫……あっけなく始まり、あっけなく終わった巨大怪獣と戦闘機部隊の戦い…………………………夫は?……今日当直だった夫は?……間違いなくあの時の発進音の長さはホットスクランブルのはず……普通の偵察なら2機くらいの発進音なのだから、あの長さは全戦闘機が向かっているはず…………………………夫は?……そんな……そんなはずは……そんな…………………………いやああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!
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