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動けなくなってどれぐらい経っただろうか。雨音が聞こえる。ぼんやりそう思っていると
――パシャ。
水たまりが舞う音が聞こえた。
パシャパシャと音を立てながら、音の主が近づいてくる。……どうせ食べられるなら、死んでから獣に食べられたかったな、と思考を巡らせていると足音が、止まった。
……その目の前に居る何かは、一向にシキを食べる気配が無かった。シキは不思議に思い、瞼を開けて前方を見上げると、
「…………人間? 生きてるのか……?」
足音の主は驚いたような声色でそう言った。
……まさか、人? こんなところに?
シキは目を見開いた。もちろん人が居たことにも驚いたのだが、シキの目に映ったその声の主の姿に、
――綺麗だ。
顔立ちはひどく整っていて、人間。……人間?
――どこか違和感がある。
服は落ち着いた赤色。髪は毛先にかけて灰色、黒、とグラデーションがかっていて、その地面に付いてしまいそうな長髪は綺麗に一束一束結われている。絹の様に美しい髪だった。そして目の色は真紅に染まった色をしていて、呑まれてしまいそうだった。それに、身体中に貼られた札と右足の足枷が不気味だった。でも、歳は同じくらいだろうか。
……少し、言葉を失っていた。そんなシキを知ってか知らずか、目の前に居る彼は続ける。
「生きている人間が居るなんて珍しいなあ! 何年ぶりに見たんだろう!」
彼は、子どものように目をキラキラさせていた。
「お前、今年の生贄だろ? …………俺が拾ってやるよ、人間」
そんなことを言うものだから、
「…………え?」
呆気にとられてしまった。予想外の言葉だったから。
彼の気まぐれな一言でシキと彼は出会った。泡沫の様な二人のお話。
始まったものには終わりがあるけれど。……まだ二人はそれに気付かないままで。
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