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二人でドタバタ、洗濯物を干したり、昼食を作っているうちに午後になった。二人は古屋から出て、日向ぼっこをしていた。
爽やかな風が吹き抜けていく。この前の土砂降りが嘘みたいだ。
ふと、この一週間、気になっていたことを口にした。
「……ねえ、詩祺。俺は死ななくていいのかな? だって俺はこの山の生贄だから、死なないといけないのに」
淡々とした口調で言った。
「お前、死にたいのか? ……本当に変わってるな、シキは。俺の知ってる人間たちは、死にたくない。そう、言ってたのに」
詩祺は少し戸惑ったような声で、シキ、お前は違うのか? と聞き返してきた。
「……痛い、のは嫌だけど。詩祺も知ってるだろ。俺は生まれつき体が弱くて、今までに何度も何度も死にかけたんだ。その度に両親に迷惑ばかりかけてきた。今回、俺が生贄に選ばれた時、……少し、嬉しかった」
「嬉しかった……? だってシキ。……その、それは」
――捨てられたのと同義じゃないか。
「詩祺の言いたいことは分かるよ、でも俺の命が役に立つ時が来たんだ。俺はいつ死んでもいいと思っていたけど、無意味に死ぬのは嫌だったから、さいごくらいは誰かのためになりたかったんだよ」
……初めて心の内を人に話した気がする。詩祺はどんな反応を示すのだろうか。
「ふぅん、シキって変わったやつ。ま、俺は退屈しないし、いい拾いものをしたからいいけど」
……何だこの半妖野郎。いちいちこちらが癪に障るような返答をするな……。慣れたからもういいけれど。
「でも、シキは死ななくていいぞ! だってこの山の生贄なんだろ? 俺、この山にずっと住んでるし、俺がこの山の持ち主みたいなものだから、この山の生贄ってことは俺の生贄でもあるし。俺が死ななくていいって言ったら、死ななくていいんだぞ」
……なんて、暴論。
「……そんな考えができる詩祺がすごいよ……」
少し、呆れた口調で言った。
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