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「……ありがとう。練習したら詩祺だって歌えるようになるよ」
「本当?俺もシキみたいに歌、歌いたい!」
……子どもみたいな無邪気な笑顔。つい笑みをこぼしてしまう。
「ねえ、シキ!さっきの続き、聞かせて!」
いいよ、と言って歌う。あまり上手な方ではないから、恥ずかしい。それでも詩祺は嬉しそうに聞いていた。……なんだか弟ができたみたいだ。向こうの方が歳上だから、少し語弊があるけれど。
夕暮れ、少し風が冷たくなってきた。昼間はずっと詩祺と歌の練習をした。洗濯物を取り込んで、夕飯を作らないと。今日の夕飯は、詩祺が狩ってきた獣の干し肉と山菜だ。それともう一つ、シキには気になることがあった。
……小屋を少し出たところにある、墓だ。最初は、詩祺の両親のものかと思ったが違うらしい。いくつも、ある。
シキは花を摘んできて、墓の前に供えていた。
「……供え物か」
後ろから詩祺の声がした。
「うん。少し華やかな方が、嬉しいんじゃないかって」
振り向かずに、答えた。
「……そうだな。俺よりも、人間のシキの方がきっと喜ぶよ」
……え?
そう思って振り返った。
「この墓は……今まで生贄に出された子どもの墓だよ」
詩祺は静かに言った。
「みんな、死にたくない、って言いながら、死んでいったんだ。だから、せめて弔おうと思って」
冷たい風が吹き抜ける。……詩祺のあの暴論のような言葉は、もしかして俺に気を遣ったんじゃないだろうか。……でも俺は、本当に。
日が暮れる。詩祺の顔が逆光でよく見えなかった。
――けど、少し物寂しそうなその瞳は何を見ていたのだろうか。
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