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「詩祺! 服を脱ぎっぱなしにしないでって言ったよね? 本当に何回言っても言うこと聞かないんだから!」
しかめっ面をして、言う。
「今からちゃんとしようと思ってたんだよ! シキってば、ピリピリし過ぎ!」
夏の足音が聞こえるようになった頃、俺たちはお互い悪態を付き合う中になっていた。
繰り返される日常。毎日やってくる、朝。
……そんな当たり前に不安を抱いたのは、いつからだったか。
俺の体は少しずつ、でも確実に弱っていった。
……こうなることは分かっていた、けれど、
――もし俺が死んだら、詩祺はどうするのだろう?
…………詩祺と俺は過ごしている時間の流れが違う。俺が死んでも、詩祺は永い時を過ごしていくんだ。きっと俺と過ごした時間は、詩祺の人生の中で小さな点になって、そして風化してしまうのだろう。
……そう考えると嫌、だった。胸がちくり、と痛む。
詩祺と過ごす時間は楽しかった。俺が歌を歌っても、ご飯を作っても、俺が知ってるお伽話を聞かせた時も……悪態を付き合ってる時も、シキは子どもみたいに、花が咲いたように、笑顔で。
無自覚に、そう。俺は詩祺との時間がずっと続けばいい、そう思っていたんだ――
ありえない、そう分かっていながら。
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