ねがいごと、ひとつ。

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「あつ~~!」  暑い、暑すぎる。……今年は熱帯夜が続いている。 「シキ、さっきから暑いって言い過ぎ!余計に眠れなくなる!」  横から文句が飛んできた。 「……ごめんってば。でも暑いって言わないと気が紛れないんだよ……」 「そうだな……」  それには詩祺も同じ意見らしい。  ……無言。  暑い。何か喋って気を紛らわしたい。そうしたら寝れないのだけれど。 「ねえ、詩祺」 「ん、何?」  ……ずっと疑問に思っていたこと。 「詩祺にはさ、……その、家族、とか、お父さんやお母さんは――」 「――、いないよ」  静かに詩祺は言った。  ……自分は何を聞いているんだろう。分かりきっていることなのに。 「……、ごめん」  ……また、無言。 「……俺の父親は妖で、母親は人間だった」  ……一言。 「両親と一緒にいた記憶はなくて、気が付いたらひとりだった。だから家族はいない。足枷も札も、人間に牢に繋がれた時のものだよ」  ――詩祺、やっぱり君は俺と何も変わらない。  ……声色、いつもと違う。やっぱり―― 「詩祺、」  俺は自分の布団から出て、詩祺に飛び乗った。 「うわっ!」  今度は詩祺が驚く番だった。 「シキ、何を――わっ」  俺は詩祺をぎゅっと抱きしめた。……詩祺の体温が伝わってくる。少し早い鼓動の音も。 「詩祺、ぎゅっとすると落ち着くでしょ?俺、小さいときは今より病気ばかりで、怖くて、誰とも遊べなくて、寂しかったんだ。今は慣れたけど。そんな時、母さんがよくこうやって抱きしめてくれたんだ」  詩祺は、はっとしたような顔をした。 「――シキ、」 「……うん。シキあったかい、おひさまみたい。……俺、初めて自分のこと、人に話せた」  詩祺も俺の背中に手をまわして、優しくぎゅっと抱きしめた。 「あとなんだよ~!家族がいないって!俺たち家族みたいな……、いや、家族だろ?一緒に生活してるしさ!」  詩祺の髪の毛をわしゃわしゃと撫でる。
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