ねがいごと、ひとつ。

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 少年の名前は、シキ。肩に付くぐらいの艶のある黒髪の少年だ。瞳の色は髪色よりずっと明るい。朝日が反射してキラキラとその淡褐色の瞳は輝いて、澄んだ色をしている。体格は同年代の十六、十七歳ぐらいの子ども達と比べると、線の細い体をしている。体格が良い、とはお世辞にも言えなかった。 「おはよう、シキ」  後ろから母が声をかけてきた。 「おはよう、母さん」  シキも、いつもと変わらず返事をして服を着替えた。シキは青や紺といった服の色が好きで、今日はお気に入りの服を着た。  今日は、村で一年に一度の儀式が行われる。  …………生贄を出す儀式だ。村の豊作を願って。選ばれた子どもは山の神へ捧げられる。  そう、捧げられる。……口減らしを兼ねて、山に捨てられるのだ、実際は。  シキの住むこの山奥の小さな村では、決して毎年生贄を出すわけではなかった。しかし、今年は干ばつや、飢饉に見舞われて村人全員が食べていくのにやっとだった。  ……そこで選ばれたのが、シキ。シキは生まれつき体が弱く、先がもう長くないことは周知の事実だった。  これは村の会議で決まったことで、両親は逆らえない。  それに、シキの家は裕福とは言えない生活をしていた。
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