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……何も生贄になることが悲しいだけのことじゃない、シキはそう思った。生贄を出した家は、その見返りとして一定の財と地位が与えられる。それを知っていたから、シキは二つ返事で承諾した。……今までずっと死と隣り合わせで、その命が家族の役に立つのなら、そう思った。シキ自身、あまり生に対しての執着が無いのも理由の一つだった。
日が高く昇った頃、シキは大人たちに連れられて山の中へ入っていった。
シキの後ろ姿を見送る両親が泣いていたから
「またね」
そう言って、一歩。先へ進んだ。
しばらく歩いた頃、もう道らしい道は続いていなかった。大人たちがここから先は君一人だ、なんて申し訳なさそうに言うから、ありがとうございました。と頭を下げて大人たちを見送った。
もう、戻れない。でも、少し体が軽やかだった。一度山を登ってみたい、と思っていたから。……まさかこんな形で叶うなんて、予想外だったけれど。
それにこの山は曰く付きの山らしい。……化け物が出るとか、出ないとか。
まだ日は高いところにある。今まで家の中で過ごしていたから、外は少し新鮮だった。少しの期待を胸に抱きながら、シキは獣道を進んだ。
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