ねがいごと、ひとつ。

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 目の前の彼は手際よく草木を掻き分けている。シキはふらついた足取りで彼の後を追っていた。雨はまだ降り続いていて、地面はぬかるんでいる。時々足がもつれそうになるけれど、必死に彼に付いて行った。  そんなシキの様子をちらり、と見た彼はあからさまにため息を付いて、 「……ほんっと人間って貧弱だよね! 仕方ないなあ!」  ……本当にどうしてこいつは癪に触るような言い方をするんだ。 「悪かったな、貧弱で! 君の住処にぜんっぜんたどり着かないから、気疲れしてるだけだよ!」  少し悔しくて、そう言った。……言い過ぎてしまったと思ったのは、内緒。 「……お前って大人しそうな顔してるけど、結構はっきりもの言えるんだな」  もう一度、あからさまにため息を付いてから、 「でもなあ、そんな足取りで後ろ付いてこられたら、俺だって良い気がしないんだよ……」  そう言って彼はシキをひょい、と軽々と担ぎ上げた。  ……ショックだった。貧相な体だと自覚していたけれど。それに彼も決して高くない自分と同じぐらいの身長で、なのにこんなに軽々と……! 「今からお前を担いで……。うん? 悔しそうな顔してるな、人間」  意地悪な笑みを浮かべてそう言った。  ……腹が立つ。その態度も理由の一つだけど、もう一つ、ある。ずっとモヤモヤしていて、思わず言ってしまった。 「さっきから君、俺のことをお前、とか人間、だとか言ってるけど、俺にもちゃんと名前があるんだぞ」  彼はあっ、そうか。といった様子で 「ふぅん。じゃあ名前、なんて言うの」  ……全く興味がなさそうに言った。 「……シキだよ。シキ、君の名前は?」  こちらが名乗ったのだから、きちんと名乗って欲しい。 「しき……。お前、シキって名前なのか……?」  彼は目をぱちくりさせていた。  ……? 一体、どうし―― 「俺も……! 俺もしき、だよ!詩祺 って名前!」  ぱあっと、子どもみたいに笑っていた。さっきの、シキを覗き込んだ時の顔とは正反対の顔だった。 「なあ、シキ! もうすぐ俺の住処だから、楽しみにしてろよ!」  機嫌が良い、一目見ればすぐにわかるほど。……不思議なやつだなあ……シキはそう思った。  しばらく詩祺がずんずん歩いて行くと、開けた場所に出た。……小屋が一つ。ここがシキにとって新しい生活の場所だった。
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