16人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
目の前の彼は手際よく草木を掻き分けている。シキはふらついた足取りで彼の後を追っていた。雨はまだ降り続いていて、地面はぬかるんでいる。時々足がもつれそうになるけれど、必死に彼に付いて行った。
そんなシキの様子をちらり、と見た彼はあからさまにため息を付いて、
「……ほんっと人間って貧弱だよね! 仕方ないなあ!」
……本当にどうしてこいつは癪に触るような言い方をするんだ。
「悪かったな、貧弱で! 君の住処にぜんっぜんたどり着かないから、気疲れしてるだけだよ!」
少し悔しくて、そう言った。……言い過ぎてしまったと思ったのは、内緒。
「……お前って大人しそうな顔してるけど、結構はっきりもの言えるんだな」
もう一度、あからさまにため息を付いてから、
「でもなあ、そんな足取りで後ろ付いてこられたら、俺だって良い気がしないんだよ……」
そう言って彼はシキをひょい、と軽々と担ぎ上げた。
……ショックだった。貧相な体だと自覚していたけれど。それに彼も決して高くない自分と同じぐらいの身長で、なのにこんなに軽々と……!
「今からお前を担いで……。うん? 悔しそうな顔してるな、人間」
意地悪な笑みを浮かべてそう言った。
……腹が立つ。その態度も理由の一つだけど、もう一つ、ある。ずっとモヤモヤしていて、思わず言ってしまった。
「さっきから君、俺のことをお前、とか人間、だとか言ってるけど、俺にもちゃんと名前があるんだぞ」
彼はあっ、そうか。といった様子で
「ふぅん。じゃあ名前、なんて言うの」
……全く興味がなさそうに言った。
「……シキだよ。シキ、君の名前は?」
こちらが名乗ったのだから、きちんと名乗って欲しい。
「しき……。お前、シキって名前なのか……?」
彼は目をぱちくりさせていた。
……? 一体、どうし――
「俺も……! 俺もしき、だよ!詩祺 って名前!」
ぱあっと、子どもみたいに笑っていた。さっきの、シキを覗き込んだ時の顔とは正反対の顔だった。
「なあ、シキ! もうすぐ俺の住処だから、楽しみにしてろよ!」
機嫌が良い、一目見ればすぐにわかるほど。……不思議なやつだなあ……シキはそう思った。
しばらく詩祺がずんずん歩いて行くと、開けた場所に出た。……小屋が一つ。ここがシキにとって新しい生活の場所だった。
最初のコメントを投稿しよう!