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ライブハウスにて
今日は奈緒子の好きなバンドのライブだった。
オールスタンディングで整理番号32番。
500人収容の小さなライブハウスでこの番号なら最前列で見ることも可能な番号だ。
だが、奈緒子は後方の、一つ上の段の手摺りの後ろに陣取った。
若い頃ならモッシュの波に飲み込まれ、ダイバーを前方へ送りつつ、躍りながら最前列を維持していただろう。
アーティストを見たい、投げ込まれるピックを取りたい、その一心で。
もみくちゃになりながらもライブを、音楽を、身体全体で体感し、楽しむことが出来ていた。
だが最近は身体が辛い。
最近では二時間立ち続けているのも負担に感じ、後ろの方でマイペースに身体を揺れ動かしている。
昔のように激しく踊るのは無理だった。
--歳を取るって怖いな……。
好きなバンドのライブなのに、最近では疲れてしまい、ラストまで体力が持たない。
どうしても次の日の予定を考えて体力をセーブしてしまう。
薄暗い中、奈緒子はBGMに揺られて開園時間を待つ。
不意にBGMが大きく鳴り響く。
オーディエンスの期待が高まり、歓声が上がる。
刹那、ステージ上のスクリーンにプロジェクションマッピングの映像がBGMに合わせて流れ始める。
ステージ下手よりアーティストが現れると、待ってましたとばかりに数分前以上のボリュームの歓声が上がり、会場が熱気を帯びた。
周りのテンションにどこか冷めたものを感じつつ、奈緒子は手摺に腕をかけ、凭れかかった。
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