傘はいらない

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傘はいらない

本当に待ってるなんて思わなかった‥‥ この言葉を残して、あなたは私から去ってしまった。 新しい年を迎える準備の為に、世の中が騒がしくなっている。 私は逆行し、静かな町の夕暮れを抱いている。 大好きだったあなたが住んでいた町の‥‥寒い夕暮れ。 ‥‥なんとなく一年の終わりにこの町に来て ‥‥ただ、ゆっくり歩く。 あなたの住んでいたあのアパートは、もうとっくにないけれど。 「いらっしゃいませ」 「‥‥カウンター、いいですか?」 「もちろんです。寒かったでしょう」 「‥‥はい、まあ」 小さな喫茶店。 暖かい。 「静かですね」 「大晦日‥‥ですからね」 「えーと」 「カフェオーレですか?」 「‥‥なんで、わかったの?」 「‥‥毎年、そうですし」 「えー、おぼえて‥‥くれてたんですか」 「大晦日は、お客さんがあまり来ませんしね。まあ、普段もあまり来ませんけど」 「それでも、すごい。年に一回なのに」 「そんなことはありませんよ」
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