甘えん坊の幼馴染み

1/5
前へ
/113ページ
次へ

甘えん坊の幼馴染み

六つ年が離れている姉が、母子家庭の貧しさに嫌気が差し、家を出ていったのが僕が十一歳の時。 それから、五年が経ちーー この間、母が亡くなり、身寄りのない僕を引き取ってくれたのは、近所に住む、幼馴染みの皆木海斗の両親。自宅隣で、小さなパン屋さんを二人で仲良く切り盛りしている。明るく細かい事は一切気にしないおばさんに対し、おじさんは寡黙で、毎日黙々と生地をこね、パンを焼いている。 僕は、お店の手伝いをしながら、忙しいおばさんに代わって、家事全般を頑張っている。 「腹減った」 夕方、海斗は決まってそう言いながら帰ってくる。自宅には誰もいないから、店の方に直接来る。 「ナオ、何か、作ってよ。ナオ」 大きい体に似合わず、甘えん坊の海斗。 必ずむぎゅーーと、後ろからバグされる。 「お昼の炒飯でもいい?」 「うん。ナオ、大好き」 にこにこの笑顔で、今度は頬っぺたにチューをされ・・・ 挨拶代わりのバグも、大好きのチューも、最初こそ怒っていたけど、今やほぼ日常化し、すっかり慣れっこになってしまった。 本当は、ダメなんだけど・・・ そのあと、海斗と一緒に自宅に戻り、台所へ立ち、急いで夕飯の準備に取り掛かかった。 海斗は、自分で冷蔵庫から炒飯を取り出し、レンジでチンし、パクパクとすごい勢いであっという間に平らげてしまった。 「お弁当、ちゃんと食べたの⁉」 「食べたよ。でも、育ち盛りだから仕方ないだろ」 「それはそうだけど」 「ご飯になったら教えて」 食べ終わるなり、携帯を手にそそくさと、二階に上がっていく海斗。 「食べたのくらい、片づけてよ」 って、言っても多分聞こえてないか。 最近、どうも海斗の様子がおかしい。 妙によそよそしいというか、何ていうか。 彼女でも出来たんじゃない、っておばさんが言ってたっけ。 背も高いし、ルックスも悪くない。性格も明るいから友達も多いのに。 今だかつて、一度にも彼女を連れて来たことはない。 なんでだろう⁉ って、考え事、している場合じゃないか。 ご飯作らないと。 「親父たちまだ?」 いつもならとっくに戻ってきているはずなのに。夜八時を過ぎてもおじさんたちが店から戻って来なくて、海斗も心配して二階から下りてきた。 「呼んでくる」 「俺も行く」 「留守番しててよ」 「一人じゃいやだ」 これじゃ、まるで、痴話喧嘩だ。 埒があかないので、一緒に行く事に。 「って、何で、手繋いでるの⁉」 「ダメ⁉」 海斗はしれっとしていた。 どさくさに紛れて、甘えん坊の本領発揮ーーって、海斗、今、幾つ⁉ というか、男同士なのに、何やってんだろう僕ら。
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!

618人が本棚に入れています
本棚に追加