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甘えん坊の幼馴染み
六つ年が離れている姉が、母子家庭の貧しさに嫌気が差し、家を出ていったのが僕が十一歳の時。
それから、五年が経ちーー
この間、母が亡くなり、身寄りのない僕を引き取ってくれたのは、近所に住む、幼馴染みの皆木海斗の両親。自宅隣で、小さなパン屋さんを二人で仲良く切り盛りしている。明るく細かい事は一切気にしないおばさんに対し、おじさんは寡黙で、毎日黙々と生地をこね、パンを焼いている。
僕は、お店の手伝いをしながら、忙しいおばさんに代わって、家事全般を頑張っている。
「腹減った」
夕方、海斗は決まってそう言いながら帰ってくる。自宅には誰もいないから、店の方に直接来る。
「ナオ、何か、作ってよ。ナオ」
大きい体に似合わず、甘えん坊の海斗。
必ずむぎゅーーと、後ろからバグされる。
「お昼の炒飯でもいい?」
「うん。ナオ、大好き」
にこにこの笑顔で、今度は頬っぺたにチューをされ・・・
挨拶代わりのバグも、大好きのチューも、最初こそ怒っていたけど、今やほぼ日常化し、すっかり慣れっこになってしまった。
本当は、ダメなんだけど・・・
そのあと、海斗と一緒に自宅に戻り、台所へ立ち、急いで夕飯の準備に取り掛かかった。
海斗は、自分で冷蔵庫から炒飯を取り出し、レンジでチンし、パクパクとすごい勢いであっという間に平らげてしまった。
「お弁当、ちゃんと食べたの⁉」
「食べたよ。でも、育ち盛りだから仕方ないだろ」
「それはそうだけど」
「ご飯になったら教えて」
食べ終わるなり、携帯を手にそそくさと、二階に上がっていく海斗。
「食べたのくらい、片づけてよ」
って、言っても多分聞こえてないか。
最近、どうも海斗の様子がおかしい。
妙によそよそしいというか、何ていうか。
彼女でも出来たんじゃない、っておばさんが言ってたっけ。
背も高いし、ルックスも悪くない。性格も明るいから友達も多いのに。
今だかつて、一度にも彼女を連れて来たことはない。
なんでだろう⁉
って、考え事、している場合じゃないか。
ご飯作らないと。
「親父たちまだ?」
いつもならとっくに戻ってきているはずなのに。夜八時を過ぎてもおじさんたちが店から戻って来なくて、海斗も心配して二階から下りてきた。
「呼んでくる」
「俺も行く」
「留守番しててよ」
「一人じゃいやだ」
これじゃ、まるで、痴話喧嘩だ。
埒があかないので、一緒に行く事に。
「って、何で、手繋いでるの⁉」
「ダメ⁉」
海斗はしれっとしていた。
どさくさに紛れて、甘えん坊の本領発揮ーーって、海斗、今、幾つ⁉
というか、男同士なのに、何やってんだろう僕ら。
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