甘えん坊の幼馴染み

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玄関を開けると、おじさんたちがそこに立っていて、びっくりした。 「ナオ、お客さんだ」 「お客さん?僕に?」 おばさんの影から、長身の男性がぬっと姿を現した。 薄暗くて、顔までははっきりとはわからなかったけれど、おじさん達に続いて、その男性が家の中に入ってきた。 彼が僕らを見おろした、その一瞬、空気が強張った。 手が繋がったままーーだったから、かもしれない。慌てて、手をふりほどいた。 「変に思われたよ、きっと」 「変に思われても、俺は構わない」 いつもと何か違う海斗に戸惑いながら、一緒にリビングに向かった。 「前の衆議院議員、槙芳樹氏の秘書の、橘内さん。ナオに頼みがあるそうだ」 やぼったい黒縁メガネの、卵形の顔をした、人当たりの良さそうな男性が軽く会釈して、挨拶をしてくれた。 「貴方のお姉さん、早織さんは、芳樹氏のご息子、一樹さんと結婚したのですが、いずれ分かり事ですので、正直に申し上げますが、元彼と駆け落ちしまして・・・」 「・・・」 姉の消息すら知らなくて。 ううん、本音は、知りたくもなかった。 そう長くはなかった病床の母を見捨てて、母親の恋人と駆け落ちした姉の事など。 「僕には、姉はいません」 きっぱりと橘内さんに言った。 「お姉さんには間違いないでしょう⁉」 色々調べて、僕に辿り着いたんだ。返す言葉が見つからない。 「で、用件は?」 海斗が声を荒げる。 「一樹さん、二日後に公示日を迎える衆議院選挙に立候補します。今までいた早織さんがいないとなると、変な憶測をよんだりして、イメージダウンも免れません。なので、ナオさんに、早織さんの身代わりをお願いしたい」 「ナオに、身代わり!?冗談だろ」 「身内の恥を晒すような事、冗談言えますか⁉勿論、それ相応の見返りはさせて頂きます」 有無を言わせぬ、射ぬくような鋭い視線を向けられた。 「さっきも言いました。僕には姉はいません。 すみませんが、お帰り下さい」 男性に頭を下げ、おじさん達にも謝った。 お願いだから、そっとしておいて欲しい。
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