甘えん坊の幼馴染み

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翌日。 開店の準備をしていると、橘内さんが懲りずにまた来た。 「何度来ても、同じです」 居座れても困るけど。 無視して、諦めて帰るのを待ってよう。 そう思っていると、もう一人の男性がお店に入ってきた。端正な顔立ちに、肩の広い長身の麗々としたその雰囲気は、否が応でも人目を引く。 槙と名乗った、その男性は、 「人助けだと思って協力してくれ」 そう言って、深々と頭を頭を下げてきた。 「あ、あの」 戸惑う僕にはお構い無しで、頭を下げ続ける。 おばさんが見兼ねて声を掛けてきた。 「仕方ないから、一日、二日だけ、協力してあげたら。 店先で、土下座されても困るし」 槙さんは、ようやく顔を上げた。 「一樹さん、告示日と、開票日の二日だけ、ナオさんをお借りしたら⁉」 隣にいる橘内さんが、槙さんに言うと、 「朝早いし、準備もある。今晩、うちに泊まるといい」 「一樹さん、それは・・・」 橘内さんが、急に、慌て始めた。 「別にいいだろう。男同士だし」 「それ以前の問題です」 橘内さんが、なぜか、頭を抱えてしまった。 「ナオ、後で、迎えに来る」 槙さんは機嫌良く、お店を後にした。 橘内さん、大丈夫かな⁉ 「ナオ、どういう事だ」 予想はしてたけど、烈火の如く、海斗は怒って帰ってきた。SNSを送信した時点で、はぁ⁉ふざけるな、と速攻で返信が返ってきたから。 「あのままだったら、土下座されて、もし、万一、そこにお客さん来たら、それこそ、信用に関わるし・・・ごめん。勝手に決めて」 「海斗、仕方ないでしょう」 おばさんが助け船を出してくれたけど。 「母さん、昨日の話しと全然、違うじゃん。しかも、そいつの家に泊まるって⁉ナオ、何かされたら、どうすんだよ」 「ナオも槙さんも、男同士よ。変よ、海斗」 おばさんは笑ってたけど。 「ナオ、来い」 そのまま、手を引っ張られ、自宅へ連れていかれ、玄関に入るなり、ぎゅっと、力強く抱き締められた。いつものハグとあきらかに違う。 「か、海斗!」 戸惑って、手足をばたつかせて。 それでも、緩めてくれなくて。 「海斗、い、痛い」 抗議すると、少しだけ、手加減してくれたけど。 「・・・きだ」 耳元で、何かを囁かれた。 「ナオは⁉」 「え⁉な、何⁉聞こえなかった。もう一回」 体がすっと離れ、海斗が、僕を見下ろす。 真剣そのものの、その眼差しは熱っぽくて。 初めてみる幼馴染みのその表情に、なぜか、ドキドキしてしまって。 思わずみとれてしまい、動けずにいると、海斗の口唇がゆっくりと近付いてきて、僕の唇にそっと重なった。 一瞬、何が起きたか分からなくて、きょとんとしていると、海斗が、聞こえるくらい大きな溜め息を吐いた。
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