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「ナオは、ご飯の用意をして。お腹空きすぎて死にそうだから」
「あっ、うん」
二人の話しの邪魔しちゃいけない。
流し台の前に立ち、夕飯の準備に取り掛かった。
「俺も、ナオも、母親を亡くしている。貴方の父に、半年も持たないと、反対された早織との結婚だけど、半年は持ったよ。結局、捨てられたけど・・・俺とナオは、似てるんだ、いろんな意味で。だから、離れる訳にはいかない。ナオまで失ったら、俺は生きては行けない。それを礼さんに、理解して貰いたい」
「一樹さんの言いたい事は以上ですか⁉」
「山のようにあるよ。恋愛は自由なはずの、この時代に、なんで、馬鹿げたしきたりを律儀に守り抜いているんだよ。俺の母を何故、認めず、疎んじ続けた⁉」
一樹さんは、胸の中にずっと仕舞い込んでいた思いを、鏡さんにぶつけた。
それに対し、鏡さんは何も答えなった。
視線を合わせたまま、しばらくの間、沈黙が流れるーー
なるべく二人の邪魔をしないよう、物音を立てないように気を付けていたつもりだけと。
「痛っ‼」
野菜を包丁で刻んでいて、鈍い痛みが指に走った。じわじわと血が滲んでくる。
「ナオ、大丈夫!?」
すぐに、一樹さんが駆け付けてきて、躊躇うことなく、その指を口に含んだ。
「そんな、大したことじゃないから」
ーー鏡さん、見てるよ。目が怖いよ‼
「念のため、病院行く⁉」
「そんな大袈裟にしないで。ほんの、掠り傷だから」
「本当!?」
うん、と大きく頷いた。
僕と一樹さんのやり取りを、鏡さん呆れて見ていた。
「二度目ともなると、新婚生活慣れたものでしょう」
「嫌味かそれ⁉俺は今が一番いい。愛するナオが側にいてくれる、それだけで幸せ。他に何もいらない」
そう言って、一樹さん、頬っぺたに軽くキスをしてきて、そのまま、いつものようにムギューと抱き締めてくれた。
「か、一樹さん‼」
なんでまた、喧嘩を売るような真似を・・・
「鏡さん、見てるから‼」
慌てふためいた。彼の視線が、とんでもなく怖いよ‼
「俺は、ナオや、海斗との関係を隠すつもりはない。橘内や、礼さんに、自分が同性愛者である事を公表する事を告げた。まぁ、反対されたけど・・・議員のなかには、レズビアンであること公表している人もいる。だから、機会を見て、公表しようと思う」
なんか、すごく、嬉しいこと言われたような。
「改めて、プロポーズしたつもりだけど」
満面の笑みを浮かべ、恥ずかしことをさらりと言ってのける一樹さんって、ある意味すごいかも。
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