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そこでは、楽しいことが待ってる予感がした。 引っ越してきたばかりの初めて見る街は、自分が生まれ育った景色とあまり変わらないようでありながら、目新しさがある。 準備の良い両親が、前もって手配してくれた制服を身に付けて、段ボールから苦労して出してきた姿見の前でくるくると回ってみる。 慣れ親しんだ街や友人たちとの別れはさみしかったが、高校2年の終わり頃、こんな時期に新品の制服が着られる自分は幸運だと思う。 今日は土曜日だけれど、休日の部活くらいあるだろう。 わくわくしてきた気持ちを止めることは出来ず、気付けば制服のまま街へと飛び出していた。 学校は地図アプリに登録してあるので、それを頼りに道を進んだ。 曲がり角が見える度に立ち止まり、携帯の画面に広がる地図を確認した。 年が近そうな子は何人か見かけたが、さすがに同じ制服を着た学生は中々見付けられない。 家から学校への道にはコンビニや小さなパン屋があったので、学校帰りに寄り道する自分を想像して歩いた。 ふと大きな建物が見えてきて、すぐに地図アプリの印から目当ての校舎だと分かった。 前からは、制服をだいぶ着崩した男子生徒が気怠そうに歩いてくる。 こちらに気付くと、少し不審そうに、それでいて面倒くさそうに視線を投げてきた。 「よお」 「あ、えっと、こんにちは」 緊張しつつも笑顔で挨拶を返す。 そんな俺をなぜか、彼はくくっと喉の奥で笑った。 「真面目だな、優等生」 片方だけ上がった口角から目を離せないでいる内に、彼との距離はどんどん近くなって、すれ違いざまに肩を軽く叩かれた。 新しい学校では学年ごとにネクタイの色が違うらしい。 慌てて自分の胸元を確認した。 そこには、彼が緩く巻いていたのと同じ色のネクタイが綺麗に巻いてあった。 彼と同じクラスだったらいいなと、小さな背中を見送りながら思った。
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