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「この子は私の子。私だけの子。何もかも無くしてしまった私にはもうこの子しかいないの。」 「そんなにアニキが憎いかい?俺の目には久子ネエがアニキと剣呑になったのは、アニキが軍属として南洋に行くって言い出してからの気がするんだが。」 久子の手が止まった。 「アニキは今年42。召集は掛からないから、軍属として戦地で金を稼ぐつもりなんじゃないか?久子ネエと子供のために。違うかい?」 久子は言葉に詰まった。 多分洋二の言っていることは当たっている。 辰は『博打仲間が皆行くって言ってるから、俺も行く』としか言わなかったが、真相はそこだろうと久子も思っていた。 戦争が激しくなっていけば仕事も無くなる。ましてやヤクザ稼業なんて、金は出て行く、人からは嫌われる。 これを機にさっぱりとヤクザから足を洗うつもりなのかもしれない。 ああ、でもあの男の言う事なんてこれっぽっちも信用できない。あの男は私から夫も子供達も奪った……。 久子の考えは結局いつもそこに落ちてしまう。辰と一緒になってからというもの、いつもこの堂々巡りを繰り返しているのだ。 「支度金は受け取ったのかい?」 「まだなんだよ。正三親分が預かってる。金ばかりか離婚届まで。」 「なんでまた?」     
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