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「邪魔するよ。」 正三親分が久子の家の引き戸を叩いたのはそれから三日後の事だった。 「これはこれは親分さん。御無沙汰を……」 もたもたと框に膝をつき、頭を下げようとして親分に止められた。 「能書きは要らねえよ。それよりも……辰が死んだ。」 「え……」 久子は親分のような人でも冗談を言うのか、と口元に微笑みが浮かびかけた。 親分は「ごめんよ」と言いながら框に腰掛けると、アンサンブルの袂に手を入れた。取り出してきたのは細長い紙、電報のようだった。親分はそれを久子の膝の上に置いた。 「今朝届いた。送ってきたのは俺の舎弟だ。」 久子は膝の上に置かれた電報を取ろうとして自分の指が震えているのに気づいた。 どうにか震えを押さえながら紙を手に取り、その文言を目に、脳に流し込む。 『タツコロサレタ ケンカチユウサイデ マキコマレタ』 信じられなかった。 あの人が。ケンカでは負け知らずと言われたあの男が。 「今にここにも憲兵が来るだろう。 兵隊で行った満州で死ななかったヤツが、軍属で行った南洋で殺されるたあなあ。まあヤクザもんらしいと言えば言えるが。」 正三親分は天井に向かって呆れたようにぼやくと、懐から封筒を出してきた。     
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