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それはまるで人の心に潜むわだかまりに似ている。月日が経ち、十分に納得していてもまだどこかに残る傷。
「仕方ねえなあ。それじゃあ、ひとつ条件がある。」
「あんたが私に出せる条件なんざない。」
「いや、頼むわ。ひとつだけ。」
そう言って辰が久子の腹に触れた。
「離婚届に判子欲しいんだろ?自由にしてやるよ。南洋に行ったら二年は帰らないつもりだ。その間に再婚でもなんでもすればいい。だがな、この子は俺とお前の子だ。それは譲れねえ。」
久子は唇を噛みしめた。
「条件、聞こうじゃないの。」
昭和16年、激動の師走は瞬く間に過ぎ、新たな年を迎えた。
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