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夏帆は待っている最中にいろいろと妄想をふくらませることができる。これにより彼女にとっては「待つ」ことが苦痛にならないのである。
帰省ラッシュの渋滞に巻き込まれてイライラが募る多くのドライバーで高速道路は埋めつくされる。
夏帆は自分の車の前に偶然やって来た車のナンバープレートの数字遊びをすることで待つことの苦痛を自然と和らげる。
ナンバープレートの4桁の数字を足し合わせて9になると「カブ」と称して最強の組み合わせという勝手なルールを妄想の中で作り上げる。
81-12を足し合わせると2になりカブからはほど遠い。
23-13を足し合わせれば9になり最強の組み合わせのカブになる。
そんな些細なことを自然にやってのけてしまい楽しんでしまうのが夏帆である。
先のラーメン店の長い行列に並んでいるときには「死人に口なし」といういつかに読んだ小説の一節が夏帆の脳裏によみがえった。
その一節から彼女の妄想はいきいきと動き出す。
中学校の学芸会で殺人事件の芝居をすることになったあるクラスで配役の打ち合わせをしている。名探偵役は誰々、刑事役は誰々、事件の鍵を握る役は誰々と配役が決まっていく。
殺害される役を誰もやりたがらず困っているとクラスの中におとなしい性格の梔子くんがいることをみんなが思い出す。
その瞬間、殺害される役をそのおとなしい性格の梔子くんがやることに決まる。理由は「死人に梔子」だからである。
そんな物語を夏帆はラーメン店の長い行列に並びながら妄想するのである。
彼女が妄想の世界に入ってしまっている時には周りで起こることなどまったく気づきもしない。大きな物音でさえ耳にも入ってこないのである。
後ろに並ぶ客に肩を叩かれてやっと妄想から現実に戻ってくる。
気づけばすっかり列は進みお目当てのラーメンにたどり着いている。
こんな調子でいつまでも待つことができる夏帆であった。
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