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そう言う戸名を見上げた聖はぎょっと目を剥いた。戸名の頭からは、二本の大きな角が生えている。
「うえええ! 夢じゃ、なかった!?」
じたばたと暴れ出す聖に「落ち着いてください」と声をかけながら、戸名は聖をひょいと抱えて応接ソファに座らせた。
「君が子どもの頃のクリスマスイブの夜を、覚えているかい?」
蔵臼は聖の向かい側で長い脚ゆったりと組んで微笑みを向ける。今日は赤い服ではなく、いつも通り完璧に整えられたスーツ姿だ。
「君は毎年、枕元にホットミルクと手作りのクッキー、それから手紙を置いてくれていた。『いつもありがとう、おつかれさま』と書かれたそれを見るのが、本当に楽しみだったんだよ」
聖は頬を赤く染めてうつむいた。まさかそれが本当に本人に――それも目の前の人に届いているとは思わなかったからだ。
「父からこの『家業』を継いで、初めて手に取った子どもからのプレゼントだったんだ。君が五歳のときだ。しかも君は、私がプレゼントを与えることのできる十二歳まで、毎年欠かさず置いてくれていた」
隣に座る戸名を見ると、「美味しかったですよ」と手を握られる。「カイ」とたしなめる蔵臼の声に、戸名は「ちょっとくらいいいじゃないですか」と唇を尖らせる。
「家業って……この会社は違うんですか?」
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