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はたと気がついて聖は口を挟んだ。この会社――『蔵臼商事』は、蔵臼家の経営ではなかっただろうか。
「経営者は長男以外が引き継ぐし、私にとっては副業だね。基本的には暇なんだ。七月に世界会議があるくらいで、本当に忙しいのは十二月くらいだから」
「はぁ……」
おとぎ話のような話は信じられない――と言いたかったが、昨日見た空に浮かぶソリ、四足のトナカイの変化……その上、家族しか知らないはずのクリスマスイブの夜のことを、蔵臼は知っているという。
「入社試験で君に『サンタはいると思うか?』と訊ねたとき、君の熱弁に私は再び心を打たれたんだ。君のことを、一生守っていこうと思ったんだよ」
「入社試験って……も、もしかして俺がこの会社に入ったのも、あなたの……!?」
聖の指摘に蔵臼は片眉を上げ、唇の端を引き上げた。大人の色香が漂う表情だ。
「私はただ、君の部屋に我が社のチラシを置いただけだ。プレゼントを配るついでにね。 あくまで選んだのは君で、入社できたのだって君の力だ」
戸名が「本当はルール違反なんですけどね……」と苦笑する。その言葉を聞いた蔵臼が「昨夜のことは」と前置きをして話し始める。
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