第2話 12月21日(金)22時20分 居酒屋・鳳鵬

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「あー、その話は聞いちゃダメですよ」と三田は答える。 「男の沽券に関わる……いや、股間に関わる話で」 「おいいい!」  聡子は「ああ……そういうこと」と叫ぶ聖から視線をそらす。いくらなんでも男としてあまりにもみじめだ。聖はやるせない思いを無理矢理流すように、グラスに残った酒を一気にあおった。  視界が大きく傾き始めたそのとき、カラカラ……と音を立てて居酒屋の引き戸が開かれた。ひんやりとした空気が足元から競うように滑り込む。  色褪せた臙脂色の暖簾をくぐって現れたのは、背が高く肩幅の広いスーツ姿の男だ。形の良いコート、織り目の細かなストール、スリムな革の手袋、短く整えられた髭――安居酒屋には似合わない、上品な出で立ちだった。 「蔵臼(くらうす)専務! 今日はご出張されていたのでは?」  聡子の声にその場にいた社員が一斉に振り返る。 「予定より早く会議が終わってね。間に合えばと思って来たんだが……」 「皆さんの忘年会に参加したくて、急いで帰ってきたんですよ」  蔵臼の背後から人の良い笑顔が出てきた。専務専属秘書の戸名だ。細身のスーツが身体のラインにぴたりと沿っていて、姿勢の良さが際立つ。     
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