74人が本棚に入れています
本棚に追加
「戸名さんも来られたんですね。まだまだ私たちは大丈夫ですよ。皆さんもいいですよね?」
もちろんでーす、と元気な声があちらこちらから上がる。
蔵臼は安心した様子で、ありがとうと微笑んだ。その笑顔に思わず聖はほうっと息をつく。周囲の社員も同様だった。男も女もアルコールで赤らんだ顔をさらに上気させて放心している。が、すぐに我に返り、争奪戦が始まった。
「蔵臼さん、こちらにいらしてください! 私たちと飲みましょう!」
「戸名さんはこっち!」
人気者はいいなぁ――そんなつぶやきとともに、聖の世界は黒い渦の中に沈んでいった。
「おや……雪村くんはどうしたんだい?」
テーブルに突っ伏したまま微動たりともしない聖のもとへ、ようやく近づくことができた。蔵臼は聡子に声をかける。そう、あくまでさり気なく。
「ああ……どうやらヤケ酒を飲みたくなるようなことがあったようで」
「ほう?」
興味深げに眉を上げた蔵臼に、聡子は三田に目配せをして席を立った。三田は待っていましたとばかりに声を低めて話し出す。
「どうやら勃たなくなったらしいですよ。しかもその原因が、初体験で彼女に『早すぎる!』って言われたストレスのせいなんじゃないかって」
蔵臼は腕を組み、その話にじっと耳を傾けていた。
最初のコメントを投稿しよう!