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子どもたちには毎年、父親手作りのアドベントカレンダーが用意されていた。クリスマスまでの間、毎日晩御飯のあとにひとつずつ袋を開ける約束になっている。袋は不恰好で、中身は大抵駄菓子だ。それでも開くたびにドキドキして、残りの袋を数えては「クリスマスはもうすぐだね」と家族で笑い合っていた。絶対にサンタの姿を見ようと心に決めても、はしゃぎ疲れて夜にはぐっすりと眠ってしまうのがお約束だった。
クリスマスというのは、聖にとって楽しい思い出の詰まった一大イベントなのだ。
家族が自分にやってくれたようなことを、いつか恋人にやってあげたい――そんな思いが頭のどこかにいつもあった。ついにその願いが叶うかと思ったのに、肝心なときに役立たずになったせいで振られてしまうなんて……
「うう……なんで勃たないんだよぉ……」
股間を見下ろすその視界がじわりとにじんでくる。
「勃たせてあげようか?」
「ふ、ふえぇええっ!」
突然背後から聞こえてきた低い声に、聖は床から十センチは飛び上がった。
「聖くん、君にクリスマスプレゼントをあげよう」
おそるおそる振り返る。そこには、真っ赤なサンタクロースの衣装をまとった男――と、トナカイが立っていた。
「え、え、誰、ですか!? ……っていうかトナカイ!? 本物のトナカイ!?」
男の隣に立っていたのは、もふもふとした毛皮をまとい、大きな二本の角をもつトナカイだ。
「私はサンタクロースだよ。こっちは私の相棒のトナカイ。もちろん、空を飛ぶトナカイだ」
男は赤い帽子の上から頭をかいて笑う。妙に落ち着いた仕草すら怪しさ満点だ。
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