絵を描かない二人の美術部

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 柏木さんはスッといつもの席に座った。僕の方を向いて前の席を指さしている。座れ、ということだろうか。  僕が座ると柏木さんは黙ったまま何かを書き始めた。ときどき僕をチラチラと見てくる。なんだろうと思って覗こうとすると「まだダメ」と怒られてしまった。本当に何なんだろう? 「出来た」 と言って柏木さんが見せたのは絵だった。鉛筆で描かれた、おそらく──人?えらくドロドロとしている。 「これ、翔太郎」 「ええ!?」 こ、これが僕……?そうか、ずっと人として生きてきたけれど、それは間違っていたようだ──んな訳あるか。 「私にしては良くできた方。この通り、私は絵が下手。底辺。だから今回は翔太郎に頑張ってもらうしかない」  柏木さんは一度も目をそらさず、まっすぐに僕を見ていた。何だか狐につままれている気分。 「ちょっと待ってよ。僕だって上手くなんか──」 「いいや、上手。しかも、最高に。私は知ってる」 ……。 「中学の時、真由に連れられて学生絵の展示会に行った。そこで見た。光差す教室に窓際に立つ一人の女子生徒。繊細なタッチに大胆な色使い。絵にする世界の切り取り方も、何をとっても他と違った。──決して忘れることはない。作品名は『罪』。作者の名は三坂翔太郎」
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