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驚いた。いや、違う。恐い。恐かった。彼女がどこまで知っているのか、それを聞くのが恐かった。体の震えが止まらない。震える右腕を押さえようと伸ばした左腕も既に正常ではなかった。体温は急激に上がっているはずなのに、寒い。呼吸が乱れていく。苦しさを感じる前に視界が歪んだ。激しくなる鼓動に混じって、ソレが聞こえる。
──君に私は映らないのね。
痛い。耳が、その奥が。目に映るは最早彼方向こう。無意識に「あ」という音が大量に漏れてゆく。
忘れようとしていた、忘れたかった。忘れちゃダメだとわかっていたのに、忘れられるはずがないのに──!
「──大丈夫。」
スッ、と温かなものに包まれた。
「大丈夫。あれは過去。もうとっくに終わった作品。私も真由も何も知らない。知りたいとも思わない」
その温かなものは、ゆっくり僕の中に入ってきた。ゆっくりと入って、優しく溶けた。
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