題材ツアーと黄昏の日

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「次で最後」  もう行き先は聞かなかった。代わりに僕は時計を見た。6時35分。そろそろかな。  たどり着いたのは特別棟の屋上。ドアノブは埃だらけで、手の跡がしっかりと残ってしまった。普段は鍵がかかっていて、教師に『正当な理由』を突きつけなければ開けてもらえないこの屋上。勿論、僕らは『正当な理由』なんて持ち合わせていないから、無断で上がったということになる──美術部に伝わる秘密の合鍵を使って。僕は前に一度だけ、ここに来たことがあった。  前もたしかこれくらいの時間だったっけ。  沈みゆくオレンジをぼおっと眺めながら、僕の意識は過去へと誘われていった。
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