絵を描かない二人の美術部

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 美術室は四階建ての特別棟の四階にある。ここ数年は美術を専攻する生徒がいないらしく、美術室はいつも僕らの貸し切り状態。今年も美術を専攻する二年生はいなかったらしい。  やっと四階についた。エレベーターなんてハイテクな物はこの古くさい校舎にはついていない。去年一年通い続けたとはいえ、荷物をもって四階まで上がることには僕の体は慣れなかった。  少し上がった息を整えるように、ゆっくりと廊下を歩く。ここからだと見下ろして見ないといけない桜は、もう薄桃色の4月を捨てて、萌木色の5月を迎えようとしている。  最後に大きく傾いた太陽を確認して、僕は美術室に入った。  カーテンが常に閉めてあって薄暗い部屋。6×5の席を囲むように置かれてる誰が描いたか分からない絵。一歩入ると匂ってくる独特の香り。後ろに並んだ石膏像が毎日参観日っぽく演出している。  今日もいつも通り、女子生徒が一人、ポツンと席に座って、静かに本を読んでいるのだった。 「柏木さん、今日は何を読んでるの?」  柏木瑞希。同じ二年生で隣のクラス。僕を除く唯一の美術部員。 「ん。これ──『心理学者の失敗集』」  彼女はいつも美術室の一番後ろの席で本を読んでいる。訊けば「一日二冊は必ず」という。全く読まない僕にとっては怪物級のスピードだ。ちなみに、そのジャンルは様々。──但し、美術関連を除いて。
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