絵を描かない二人の美術部

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 僕は「ここと、ここと……」といった具合で問題を指差していく。「ここは……」と柏木さんが説明を始めた。ツーサイドアップの長い黒髪が揺れる。  淡白だけど分かりやすい説明は、彼女自身をよく表していた。  表情は余り変わらない、どちらかと言えば無愛想。だけど意思表示ははっきりとするから、結構分かりやすい。誰にたいしても変わらぬその態度、彼女のそんなところに僕は憧れているのかもしれない。 「──翔太郎、聞いてる?」 「あっいや、ごめん……」 「わかった、ここからで大丈夫?」  ただ、どうしても分からないことがある。  それは、美術に全く興味の無い彼女が何故美術部に入ったのか、ということだ。  柏木さんには二つ上の姉がいる。その人も元美術部で、僕らの先輩にあたる。でも、それだけじゃ足りない。『姉が』という理由だけでは柏木さんは動かない。『私が』と自分から何か思わない限り、絶対にだ。  それ故に、分からない。何故あの時、彼女は僕にああ言ったのか、本当に。 ──美術部に入って。私と、一緒に。
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