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比奈が九能に飛びかかろうとしたので、東がそれを羽交い絞めにして止める。
その横でアウレリアが腹を抱えて大爆笑していた。
その後――しばらくして、ようやく落ち着いた比奈が話を始めた。
「荒川さんのことを聞かせてちょうだい」
「あらあら、いきなりですか?」
九能はやれやれといった顔をしながら、ゆっくりとジャガイモを、ナイフとフォークで切り分けていた。
一口サイズにしたジャガイモに、赤ワインソースをつけて口に運んでいく。
「どうせ何が起きているか知っているんでしょ?」
比奈が無表情で訊いた。
比奈がいつもの無表情なっているということは、もう鉄板にステーキがなかったことの怒りは消えたようだ。
九能は大きくため息をついて、ビンに入ったミネラルウォーターをグラスに注ぎ、一口飲んでから言う。
「あなたたちがずっと私を捜していたと聞いたから、何かと思えば……。電話の一本でも入れてくれればよかったのに」
「よく言うわ、かけても出なかったくせに」
そう言われた九能は、とぼけながら誤魔化し、しばらく黙ってから話し出す。
「では何が聞きたいんですか? 何を知りたいんですか? ヒトラー並みの緩急のきいた演説で聞かせてあげますよ」
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