第15話 牛がないじゃない

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比奈が九能に飛びかかろうとしたので、東がそれを羽交い絞めにして止める。 その横でアウレリアが腹を抱えて大爆笑していた。 その後――しばらくして、ようやく落ち着いた比奈が話を始めた。 「荒川さんのことを聞かせてちょうだい」 「あらあら、いきなりですか?」 九能はやれやれといった顔をしながら、ゆっくりとジャガイモを、ナイフとフォークで切り分けていた。 一口サイズにしたジャガイモに、赤ワインソースをつけて口に運んでいく。 「どうせ何が起きているか知っているんでしょ?」 比奈が無表情で訊いた。 比奈がいつもの無表情なっているということは、もう鉄板にステーキがなかったことの怒りは消えたようだ。 九能は大きくため息をついて、ビンに入ったミネラルウォーターをグラスに注ぎ、一口飲んでから言う。 「あなたたちがずっと私を捜していたと聞いたから、何かと思えば……。電話の一本でも入れてくれればよかったのに」 「よく言うわ、かけても出なかったくせに」 そう言われた九能は、とぼけながら誤魔化(ごまか)し、しばらく黙ってから話し出す。 「では何が聞きたいんですか? 何を知りたいんですか? ヒトラー並みの緩急のきいた演説で聞かせてあげますよ」     
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