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第15話 牛がないじゃない
――静まり返った店内。
その中をゆっくり歩いていく九能は、ツーブロックの男に近づいて声をかけた。
九能が、この状況はどうなっているんですか? と訊ねると、ツーブロックの男は、震えながらしどろもどろになっている。
さっきまで殺気立っていた店内の韓国人たちも、皆、何も言わずに、背筋を伸ばして九能の方を見ていた。
「やっと見つけた……九能常秀」
比奈が、その沈黙を破ってボソッと言った。
比奈に気がついた九能は、バーカウンターにいる中年の店員に声をかける。
「奥の部屋は空いていますか?」
中年の店員が頷くと、九能は笑顔で言う。
「加藤比奈さん、奥で話でもしましょう。マスター。この三人が飲んでいたものをもう一杯。それといつものやつを四人分お願いしますね」
比奈は九能に会釈して返すと、アウレリアを睨みつけた。
アウレリアは、不機嫌そうな顔してそれを無視する。
それから彼女は、東の傍に行くと急にニヤケ顔に変わり声をかける。
「よう、さっきの最高だったぜ」
「……どうも」
嫌そうに返す東。
アウレリアは言う。
「お前はあたし側だった」
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