第15話 牛がないじゃない

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自分より偉い人がいると、丁寧になるなんて。 それより今は……牛!!! ステーキって言ったら、やっぱり牛!!! 絶対に牛だよね!!! 無表情の比奈だが、内心では心が弾んでいた。 ジュージューとなる鉄製ステーキ皿が、それぞれ前に置かれていく。 熱された鉄板から、赤ワインソースの美味しそうな匂いに、比奈の期待は高まっていた。 だがしかし――。 「こ、これはどういうこと……?」 比奈は、思わず声に出してしまった。 鉄板の上には、バターの乗ったジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、ブロッコリー、コーンなどの付け合わせ野菜しかなかったのだ。 九能は言う。 「さぁ、私のおごりですから気になさらずに」 その顔はとてもにこやかだ。 「ふざけないで!!!」 比奈が、急にソファから立ち上がって怒鳴りだした。 それを見て東は驚いているが、アウレリアは今にも大笑いしそうな顔をしている。 「あなた……わざとね。あたしが牛好きなの知っているくせに、わかっていてこういう意地悪をしているのね」 そう言われた九能は、にこやかなまま何も言わない。 比奈は立ち上がったまま(うつむ)き、ワナワナと震え始めると、顔を上げて九能へ叫んだ。 「ブチコロ助ナリッ!!!」     
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