第16話 あの人がエーリッヒ・フロムを語る

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「コーヒーとオリーブオイルの香りがする場所で、あいつらはきっとお前の帰りを待っている」 荒川は、洗面器を左手の義手で叩き始めた。 「うわぁぁぁぁぁ!!!」 叫び声を上げながら何度も叩く。 金属の無骨(ぶこつ)な義手で叩かれ、洗面器に次第にひび割れが入っていった。 「あいつらはお前を愛している。お前もあいつらを愛している。これまで築き上げてきた暮らしをなぜ大事にしない?」 荒川は苦しそうに言う。 「あたしの罪が人を……親友を殺した……。店のみんな……滝子(タキ)も恵美も……みんな殺されるような人間じゃなかった……」 「贖罪(しょくざい)のつもりか。だが、お前の罪はもう(あがな)うことは叶わない。それは死んで終わらせることなどできないのを、お前が知っているからだ」 洗面棚を乱暴にこじ開け、錠剤の入ったビンを取る荒川。 おぼつかない手つきで(ふた)を開けて、錠剤を口の中へ流し込む。 ガリガリ、ガリガリ。 今度は嗚咽の声ではなく、錠剤を噛み砕く音が、水の流れる音と交じり合う。 「このまま進んでも地獄へ向かうだけ……。お前はわかっているはずだ、自分のしていることであいつらが何をするのかを……」 「うるせぇ!!!」 荒川は、洗面所の鏡越しに福富を(にら)みつける。     
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