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「コーヒーとオリーブオイルの香りがする場所で、あいつらはきっとお前の帰りを待っている」
荒川は、洗面器を左手の義手で叩き始めた。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
叫び声を上げながら何度も叩く。
金属の無骨な義手で叩かれ、洗面器に次第にひび割れが入っていった。
「あいつらはお前を愛している。お前もあいつらを愛している。これまで築き上げてきた暮らしをなぜ大事にしない?」
荒川は苦しそうに言う。
「あたしの罪が人を……親友を殺した……。店のみんな……滝子も恵美も……みんな殺されるような人間じゃなかった……」
「贖罪のつもりか。だが、お前の罪はもう購うことは叶わない。それは死んで終わらせることなどできないのを、お前が知っているからだ」
洗面棚を乱暴にこじ開け、錠剤の入ったビンを取る荒川。
おぼつかない手つきで蓋を開けて、錠剤を口の中へ流し込む。
ガリガリ、ガリガリ。
今度は嗚咽の声ではなく、錠剤を噛み砕く音が、水の流れる音と交じり合う。
「このまま進んでも地獄へ向かうだけ……。お前はわかっているはずだ、自分のしていることであいつらが何をするのかを……」
「うるせぇ!!!」
荒川は、洗面所の鏡越しに福富を睨みつける。
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