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桐花は、泣き出したスーロンに驚き、必死で慰めていると、半蔵が三人分のマグカップをトレイに乗せてやってきた。
湯気が立ち上るマグカップにはココアが入っていた。
桐花は受け取ったマグカップを、すぐにスーロンへ渡す。
スーロンの背中を擦りながら、落ち着いて飲むようにと優しくいう桐花。
両手でカップを持ったスーロンは、少しずつココアを飲んでいくと、やはり甘いものが好きなのか、次第に泣き止んだ。
それを見て安心した桐花は、自分もマグカップに手をつけ、ココアを飲む。
桐花がハッと驚いた顔をして言う。
「おいしい……。ココアがこんなにおいしいなんて知らなかった」
「うんうん」
その横で、目を真っ赤に腫らせたスーが頷いた。
半蔵は、サングラスの位置を直しながら、ゆっくりと立ち上がる。
「ココアの暖かい包容力に勝てるのは女神の抱擁だけだ」
桐花は思う。
……いや、立つなよ。
ホント痛いな……。
桐花は、無視はまずいと思い、一応言葉を返した。
「じゃあ、あたしに女神は無理ね。そんな包容力なんてないもの」
半蔵は、腰を下ろし、桐花を見つめて言う。
「なりたかった自分になるのに遅すぎるなんてことはない」
「それ……ジョージ・エリオットでしょ」
「よく知っているな」
「イギリスの作家は大体チェックしてるわ」
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